次に目隠しされているのでよくは見えないのですが、どうも乗組員が、1人ずつ後ろにあるドアから外に連れ出されているようです。これは1人ずつ殺すのかと、初めは考えていたのですが、どうもそうではないようで、まもなく私に番が回ってきて私も手をつかまれて後ろのデッキに出て、ハウスの壁沿いに船首のほうに連れられて行くのがわかりました。そのときに、自分の船のエンジンの音とは別のエンジンの音が聞こえて、何かと疑わしく思っていました。
ブリッジの横ぐらいに来たところで、急に私の目隠しを取りました。こちらの船よりは小さいのですが、私の勘では1500トンから2000トンぐらいの貨物船が完全にわれわれの右舷に横付けしていました。船の後ろをだいたい揃えたような位置にいるので、船のハウスがほとんど並んだような状態のところにあったと記憶しています。
それから私に向こうの船に渡れと言いました。波のある海域だとそういうことは非常に難しいのですが、その晩は特に風も非常に弱く風で波がほとんどないという状態で、お互いに揺れているということはありませんでした。船の大きさが違うと高さも違うのですが、こちらは荷物をいっぱいに積んだ状態でかなり船が沈んでいたし、向こうは小さいけれども空船でかなり高いということで、1メートルぐらいの差でした。向こうのほうが低いことは低いのですが、渡って渡れない状態ではなかったのです。
海賊もこちらが後ろ手に縛られているから、転んで落ちたりすると危ないと思うのか、手で押さえて足が向こうに降りるまでは手伝ってくれて、下にも一応受け取る人間がいて渡されたのです。そのときわれわれの乗組員も、10人以上の人間は後ろ手に縛られた状態だったのですが、目隠しはみんな取られて、向こうの船のブリッジの前のたいして広くない場所ですが、たむろしているようなかたちで立っていました。私もその中に入り、私のあとにも4、5名が来て、全部集まったところでそれぞれの船をつないでいたロープをはずして、われわれの船は動き出し完全に離れていきました。残されたわれわれは海賊船に完全に捕らわれの身になってしまいました。
それから昔食堂か何かだったのではないかと思うような部屋に全員が連れていかれました。その船自体が、われわれにはスクラップではないかと思うほど、錆の塊のような船で、部屋の中も家具などはいっさいなく、まったくひどい状態でした。左舷側にも廊下をはさんでもう一つ小さい部屋があって、われわれを二手に分けて、私はその左舷側の小さい部屋のほうに入れられたのです。向こうの大きい部屋に9人、こちらが8人で17名を分けました。