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一部屋一部屋あさって、1人ずつ連れ出して目隠しをして後ろ手に縛り、そして1人ずつ捕まえられたのです。初めに乗組員数も聞かれていましたから、私も含めて17名全部で、何人かまとまると下の食堂に連れ込んでそこに座らされるようなかたちになりました。そして何人かのピストルやナイフを持った海賊がその監視についていました。

機関長は風の通る通風口も壊されたりしたので、とてももたないと思ったらしく、中から開けて出てきました。最後には当直の機関士がいるエンジンルームに降りていったのですが、コントロールルームに1人だけでいたものですから、これも同様に縛り上げられて上に連れてこられました。

そのとき船はフルスピード約13ノットぐらいで走っていたのですが、それをスローの8ノットぐらいまで下げるように要求され、スピードはそのぐらいまで下げました。

人間を先に捕まえて、連中の本業である盗みはそれからと考えていたようです。私を連れて私の部屋に行き、金庫の鍵は向こうが取っていますから、専用金など、私の個人のお金も一緒に入っていましたが、全部取りました。私物も着るものから、目ぼしいものはみんな取る。私の部屋には2人来ていましたが、それ以外の部屋にも散らばっていろいろと取っていったようです。

入れ物はみんなが持っているトランク、スーツケース、ボストンバックなどに、取ったものを入れて船の後部に運んでいました。それも終わって私にも用がなくなったのか、食堂に連れて来られ同じようにガムテープで目隠しされていました。私も海賊がいるというのは知っていたのですが、それほど組織だった大きな海賊がいるのは、認識不足でした。

通常の海賊は小型船で乗り込んできて、やはり武器を使って脅かして、大きなものは持って帰れないので貴重品を取ってボートに乗って逃げる。こそ泥的ですが強盗には間違いない、そういう海賊がいままでの通常の海賊でしたので、そのときも取るだけ取ったら帰って行くだろうと軽く考えていました。

しかしいつまでたっても帰りません。時計もみんな取られて時間もよくわからないし、目隠しもされています。おそらく2時ぐらいになっていたんだろうと思いますが、船の右舷側に何かショックを感じました。これは何が起きているのか。まさか、座礁するような場所ではないし、何をやっているのか初めはわからなかったのです。それはしばらくすると終わりました。

 

 

 

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