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上がったとたんに、ブリッジに入る小さなドアがやっと開くぐらいの踊り場でドアがポンと開きました。私の体にドアがぶつかってきたので、本能的にドアを押さえて押し付けたのです。押し付けたところが完全に閉まらないうちに、そこからピストルとナイフというか刀というか、だいたい40センチぐらいの刃渡りのナイフが顔を出しました。向こうもものすごい勢いで押してくるので、ほんの数秒ですが、ちょっと押し合いみたいなかたちになりました。

相手は人数も多いし、武装している。ドアがあるのでピストルはこちらを向いてはいませんが、ナイフはこちらのほうに回ってきて、私の押さえている手を切ろうというような動きをするので、これはとてもかなわないとあきらめて力をゆるめたら、2人がすぐに飛び出してきて両手をつかまれてブリッジの中に引っ張り込まれたのです。

明るいところから暗いところに入ったものですから、いったいどうなっているのか初めはよくわかりませんでしたが、当直の三等航海士とフィリピン人甲板手2人が後ろ手に縛られて、そこにうずくまったようなかたちで座らされていました。私の場合は利用価値があったらしくて目隠しはされなかったのですが、すぐに後ろ手に縛られポケットの中のどこの部屋でも開くマスターキーと金庫の鍵を両方奪われてしまいました。

私はちょうど風呂上りで、Tシャツ一枚に、下はジーンズ、スリッパを履いたかっこうでしたが、そのまま私を先に立てて、私の部屋と同じ階に降りて来ました。隣が機関長の部屋だったのですが、機関長は中から鍵をかけて、何かで押さえていたか縛っていたんだと思います。開けないものですから、そこをあきらめてほかの部屋ということでした。

その階には三等航海士と三等機関士の部屋があったのですが、2人とも当直中で開けても中は空ですから、次の二等航海士の部屋を鍵で空けて、外には私のほかに3人構えていました。ピストルとナイフの両方を構えて「出て来い」と、連れ出して目隠しというかガムテープをぐるぐる巻きにしました。そして持ってきた細いのロープで手を後ろに縛り上げて、機関長はあとにするということでその階は終了でした。

下の階に出て、やはり各部屋ごとに、武器で脅かして1人ひとり連れ出す。その時点で私はわからなかったのですが、どうもブリッジに入ってきた時点で、脅かしだとは思いますが、ピストルを2発ぐらい撃っているらしくて、そういう音が聞こえたのか、叫び声で恐れたのか、ほかの乗組員は全部自分の部屋に鍵をかけて中に入って、1人も外に出ている者はいませんでした。

 

 

 

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