海賊問題はすべての犯罪と同じく貧困や政情不安、戦乱など社会のひずみ、ゆがみに発生すると思います。東南アジア海域における海賊の多発は、現在のアジアの経済状況や宗教対立など複数の問題から起こっています。前回、国立歴史民俗博物館の宇田川先生のお話にもありましたが、後期倭寇も中世戦国時代あたりに全く同じような現象を起こしています。
中国が海禁政策をとって、密貿易が非常に活発になった。そのとき中国を出た王直をはじめとした海賊グループが外国に住む。王直は日本の平戸や五島列島にも住んでいたことがあったのですが、そういうグループがふだんは密貿易を行うわけです。密貿易で思うように荷が動かないと相手を襲う。相手が何を積んでいるかも事前にある程度わかっていて船を襲うようなことを行っておりました。
日本の戦国時代という変動と明朝後期の社会的混乱、そして西洋文化が急速にアジアに進入してきたという状況の中で、後期倭寇の海賊たちが繁栄しました。いまのアジアの状況は非常にそれに近いもの、混乱の状況にあると思います。日本人としてこの日本の生命線といわれるマラッカ・シンガポール海峡の安全を守るためには、いままでそこそこ経済協力というかたちでは取ってきましたが、もう一歩踏み込んだ国際協力関係づくりが必要なのではないかと思います。
私ども日本財団ではマラッカ海峡管理協力機構構想として、日本をはじめ中国、韓国、マラッカ海峡沿岸のインドネシア、シンガポール、マレーシア、そしてタイ、フィリピンを含めて、この東南アジアの国々へ協力した新しい協力関係の枠組みづくりを用いて、公海上であっても領海内であっても海賊問題に限らず国境を越えた航行安全の枠組みづくりを提案しております。
民間ベースをはじめ、政府、民間を越えたアジアの人間としての新しい協力関係が、航行の安全、海賊対策にとって一番必要なことだと思います。今日は長い間どうもありがとうございました。(拍手)
司会:ありがとうございました。セミナーの内容に関して質問のある方はいらっしやいますでしようか。
質問:船を襲った海賊は組織的に活動していると考えられますが、この組織について何かわかっていることがあれば教えていただければと思います。
山田:たとえば最初の“テンユウ号”事件ではミャンマーで発見して、ブローカーは韓国で捕まっています。ただブローカーは一部でしかないわけです。その先はまた見えない。