かなりインドネシア側に近いほうからプーケットに連れてきて救出していただきました。この船は“希望幸運3号”という非常に人助けにもっともな名前の船で、この船長に私は日本海難防止協会のイケガミさんという方と2人で会ってきました。船長は船乗りとして人命の救助は重要だから、本来いろいろな手続きが必要だったが、自分の判断でとにかく人の命を助けようと救出しましたとおっしゃっていました。そういうことが一番大事なんだろうなと感じました。
また同様の犯行が今年の2月の末にも起こりました。“グローバル・マース”という船がマレーシアからインドにパームオイルを運ぶ途中襲われました。この事件も同じように積み荷ごと船を奪われたのですが、“アロンドラ・レインボー号”のときは救命筏でしたが、今度は犯人はエンジン付のボートを渡してくれました。若干の食糧とエンジン付のボートを与えられて、あっちに行けということで放されたということです。その上ご丁寧なことに、アタッシュケースに保管してあったパスポートと船員手帳を丸ごと渡してくれて、好きに帰れということで乗組員たちも最終的にタイで救出されました。
この三つの事件から見ると海賊たちも進化しまして、追及が厳しくなるので人の命には手を着けてはいけないと考え、逆に積み荷を売りさばく技術あるいはごまかす技術がかなり進化しているのではないかと思います。“グローバル・マース”も最終的には中国の南部、香港の沖合で捕捉されていますが、その段階でパームオイルのうち売りやすい加工済みのものは売却されたあとでした。最終的に乗組員も入れ替わっていたのですが、そのようにだんだん海賊グループも進化しています。そして海上保安機関の国際協力が明確になってきたいま、ハイジャック事件は“グローバル・マース”以降、なりをひそめています。
現在、採られている海賊対策について少しご説明させていただきますと、国連海洋法条約とは別にシージャック防止条約というものがあります。これは通称ローマ条約と言われています。犯行を発見した国は領海を越えて追跡することができるなど、いろいろな条件が入っているのですが、残念なことにこのシージャック防止条約という国際条約を批准している東南アジアの国はありません。
このへんでは日本、韓国、中国が批准しているだけで、海賊事件が頻繁に起こる東南アジア諸国ではこの条約を批准しておりません。いくつかの国ではいま批准する準備に入りつつあるということですが、1日も早く国際的な条約にできるだけ多くの東南アジアの国々が入る必要があると思います。