この中で注目していただきたいのは、私有の船舶または航空機の乗務員、私利の目的で行うすべての不法な行為というところですが、この段階で海賊行為と言うのか、あるいは日本の近くにある超大国の末端の官権が行う行為が海賊に当たるのではないかなど、このへんもいま議論になっています。また公海におけるという項目がありますが、公海上でなければ海賊と言わないのか。
公海、領海と言っても海の上に明確な線が引いてあるわけでも壁があるわけでもないので、どこを公海、どこを領海とするのか。いまGPSなどがありますが、海上にいては見た目ではわからない。また海に出てしまえば領海、公海を自由に航行するので、必ずしも公海と特定していいものかということで、このへんもいま議論されています。
私ども日本財団では、現実のところ海を舞台として行われる盗賊行為、暴力的な犯罪行為すべてを海賊としております。これは先ほど申しました広辞苑をもとに定義をしたものです。
続きまして海賊の種類にはどのようなものがあるか。海賊行為にも陸上の犯罪と同じようにありとあらゆる種類のものがあります。私どもは大きく三つに分類しています。一つは窃盗型、これはこそ泥に近いものです。停泊中や錨泊中などに船内に忍び込んで船用品や船員の私物などを盗む。東南アジアに多いことから東南アジア型と呼んでいる場合もあります。特にボルネオ島岸、サマリンダやバリクパパンという町、あるいはインドのゴアやボンベイ、いまのムンバイあたりにこういう事件が多く報告されています。
錨泊中、特に夜間などに忍び込んで盗んでいくものは、ビス一本から取れるものならなんでもいいということで、よくやられるのがロープを盗んでいく。ロープを根元からちょんぎって持っていってしまう。ロープと言ってもかなり重いものなのですが、何人がかりで行うのか持っていってしまう。
あとよくやられるのが救命筏です。これは船の必需品なので、ないとどうしても航海に差し障りが出ます。「港で盗まれてしまったのでどうにかしてくれ、当座しのぎなので安いものでいいのだけど」と地元の代理店に言ったら、「じゃあ安いものを探してくる」と代理店の人が出ていったら、名前をつぶされた自分の船のものが返ってきたという冗談みたいな本当の話が報告されています。港にはブラックマーケットができていて、船から盗んでいったものがその日のうちに商品として並んでいるというのがこの地域の現状です。