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先ほど、プライヴァティアの代表的人物はフランシス・ドレイクだと申しましたが、バッカニアのほうの代表的な人物は誰かと言うと、ヘンリー・モーガンという人です。この人はイギリスがクロムウェルの時代に、スペインから奪い取ったジャマイカ島に基地を持っていたバッカニアの1人です。ジャマイカにポートロイヤルという町があったのですが、海岸の砂洲に作られた町だったそうです。それがイギリスのバッカニアの基地になったのです。よく港に来て、どんちゃん騒ぎをして、飲みまくって、女たちがたくさんいるという海賊映画があります。あれはだいたいポートロイヤルを念頭に置いています。

賭博が行われるなど、要するに売春宿はいっぱいあるとか、荒くれ男たちの命の洗濯をする場所になっていて、また湯水のように金を使って、酒を飲んだり女を買ったりする場所で、博打で儲けを全部一晩ですったとか、ばかばかしい話がたくさんあります。

そのポートロイヤルを基地にヘンリー・モーガンは数回ものすごい攻撃をかけているのです。一つはマラカイボという、いまベネズエラの石油基地になっているところに、殴り込みをかけます。またパナマに攻め込んで、町全部を占領してしまいました。そこにしばらく滞在し、乱痴気騒ぎをつくして、周囲の住民から食料や金銀などいろいろな物を持ってこさせて、略奪の限りを尽くしてから、やっと引き上げていったのです。

アメリカの小説家のジョン・スタインベックという人は『怒りの葡萄』とか、いろいろな有名な小説を書いている人です。この人の処女作というのが、ヘンリー・モーガンのパナマ攻略の話を主題にした『黄金の杯』(Cup of Gold)という小説なんです。これは私も若いころ読んだことがありますが、小説なものだからなかなかおもしろく書いてあって、モーガンはパナマの財宝に憧れると同時に、噂の伝説の美女がそこに住んでいると、それを夢に描いて、しゃにむに攻撃するんです。そしてパナマを占領してその女に会ってみると、たいしたことがない女だったという話です。バカバカしい話ですが、小説ですからそれでもいいのかもしれません。

ところがパナマを占領して、いい気持ちになって、ジャマイカにモーガンが帰って来たら、ジャマイカの総督から「ちょっとまずいぞ」と言われます。どうしたのかというと、彼がパナマ攻撃に行っている間に、イギリスとスペインの間に和平条約が成立してしまった。だから彼のパナマ攻撃は犯罪行為であり、条約違反だということになる。そこで本国に召還されます。

それでスペインの大使はしきりにこの犯罪人を引き渡せと言うのだけれど、公にはいけないことをしたといっても、イギリスにとっては英雄的な存在です。当時の王様もスペインに対しては、うやむやな返事をし、しまいには彼をジャマイカの副総督に任命しました。

 

 

 

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