セルバンテスはアルジェに5年間いましたが、彼は伝記によるとシチリアのパレルモから船に乗ってサルディニア島の南を通ってバルセロナに近づいていったとき、このへんで海賊の船に捕まったのです。だからバルバリア海岸の海賊がこのへんまで来て荒らしていたことがわかります。バレンシアはスペイン東部の海岸の町ですが、しょっちゅうやられていました。ポルトガルにも来る、フランスにも来る、イギリスにも来る。バルバリー海岸の海賊は手に負えません。
海賊であると同時に、イスラム側から見れば聖戦なんだからという錦の御旗があるということで、始末が悪い。しまいには19世紀になって、アメリカ合衆国の海軍までここに来て海賊退治をやっている。アメリカ船にも被害が出るほど、コーセアは地中海や大西洋を荒らしていたのです。
ですから海賊というとすぐにカリブ海というように考えてしまいますが、そうではなくて地中海の海賊はまた特別です。そこに定義したように、地中海南部の海賊はコーセアという名前で呼ぶというのです。それでバルバリー海岸の海賊がやっといなくなったのは19世紀になってからです。だから随分長い間活動していました。
それからはじめにプライヴァティアという言葉を挙げておきましたが、これもよく使われます。これは私掠船という言葉で訳されます。海賊の一種であることには違いないのですが、公の免許状を持っている。英語のプライベイト、私的なという言葉からきています。つまり国の海軍とか、公なものではない私的なものだけれども、略奪の許可をもらっている。
国家は公の海軍を持っています。たとえばイギリスもヘンリー7世、8世の時代から、つまり16世紀の初めぐらいからロイヤル・ネイビー、つまり王室海軍というものを持ちました。実態は海賊とあまり変わらないのですが…。ところがその公の海軍とは別に、敵国ないしは準敵国に対して襲撃して略奪する船がある。しかもその際、特定の人物、貴族とか公爵とか場合によっては国王自身の免許状を持っている。そのお墨付きがあれば、その国側からすれば、これは海賊船ではなくて私掠船なのです。敵から見れば海賊です。そういうかたちの海賊が16世紀に非常に盛んになってきたのです。
具体的にわかりやすく言えば、日本はいま海軍はありませんが、海上自衛隊というものがあります。これは公のものです。そうではなくて、一隻の船があって機関銃も大砲も持っている。