ところが、インド洋に来ると距離的に遠いですから、ちょっと事情も違ってきて、インド洋で略奪した船長は売ることができなくて、財宝を持って国に帰ります。しかし、この売りさばき場所がわからない。ダイヤモンドを、ロンドンのある貴族の仲介人を通じてダイヤ商に売ります。ところがその仲介人は悪賢い人物で、これは海賊として奪ったものだから、俺が王様に訴え出ればおまえら捕まるよと言って脅すんです。脅されてお金にならない。裁判で争っても、貴族と海賊上がりの船長では信用度が違う。つまり、苦労してマラダスカルで分捕った大財宝が悪徳貴族に横取りされて、海賊船長は貧窮のうちに死んでしまう、という悲劇も起きます。
したがって、買ってくれるルートと食糧の補給は、大変重要です。
カリブ海でなぜあれだけ海賊が活動できたかというと、買ってくれる人間がニューヨークなどにたくさんいたのです。それから補給食料として豚の干し肉を作っていた初期には、その名をとってバッカニアと呼ばれたという説がありますが、そうだと思います。干し肉を作ってそれを船に積んだのです。ニューヨークやボストンでの故買ルートが確立してからは、北米東岸の干魚が重要な補給食料として、帰り荷になります。
現地調達できる重要な食料となっていたのが、海亀です。カリブ海は、いまでも海亀漁が盛んです。海亀の肉は、大変おいしいものです。海賊がどういうものを食べていたか、味わってみたい人は小笠原に行くと今でも海亀のステーキや内蔵の煮込みが食べられます。牛のヒレ肉、牛のモツ煮よりもっとおいしいものです。内臓を煮込みにしたものは、焼酎とよくあって、これまたおいしいです。東京都内では、有楽町のレストランで海亀スープを出しています。
それからアルテリーベというドイツ料理店でも海亀のスープが供されています。大変上等な食べ物です。海亀はデッキに転がしておくと、あまり逃げることもなく、幾日も保ちます。それから砂の巣に卵を産む海鳥の卵です。こういったものが食糧の補給に大いに役に立つものですから、カリブ諸島でたくさんの海賊が生き延びられたという事情があります。