4. 国権の発動と無法のはざまで―近代・現代の諸相―
国際関係上、スペインとイギリスとか、スペインとフランスの関係が安定してしまうと、スペイン人の船をイギリス船が略奪してもいいよというわけにはいかなくなる。そこで出てくるのが4番目の段階です。
一応わかりやすいように、海上ゲリラ的な海賊行為という発展段階に移ります。つまりカリブ海の場合は、その海域周辺がフランスのマルティニク島だとか、イギリスのジャマイカ島だとか、関連諸国の勢力が固定してしまうとプライヴァティアとしての海賊行為ができなくなります。
海賊をやっていた連中は「お前ら、今までの罪は問わないから、全部正業に復せ」と言われるのですが、そう簡単にはいかない。それでは、彼らはどこに行ったか。大西洋からアフリカの喜望峰を回り、インド洋ならまだやれるということで、一部の連中はマダガスカル島に行きます。マダガスカル島に行ってペルシア湾とかインド洋を航海する船の財宝をねらいます。
このへんになると、もう一つの成立の条件が加わってきます。要するに、近代は特に貨幣経済が発達しますから、奪った商品を売りさばけなければ何にもならない、という点です。昔もそうですが技術があって、拠点があって、情報を得て、たくさん分捕り品があっても、これらを買ってくれる人、つまりルートがいないことには、その日の食にもありつけないのです。
そのためにはカリブ海には、いろいろなシステムがありました。さまざまな総督とかが本国から派遣されています。情報があまり頻繁ではない当時ですから、この総督が私腹を肥やすために、今日の公務員や議員でもお金をもらって捕まる人がいるのですから、本国から遠い遠い島などを統治していると、海賊から物品を買って売りさばくとか、それを手下にやらせるというのは、大変実入りが多いことなので、みな海賊と結びつく。
買ってくれるルートがあって初めてお金になるわけです。拠点が重要だということは、売りさばくことと、補給です。金銀、ダイヤモンドをたくさん持っていても、食べるものがなければ明日の食料にも困るし、水がなければ生きていけません。
拠点で基本的に大変重要なのは、補給なのです。昔から、地中海の時代から補給には海賊の皆さんは苦労したのです。
庇護してくれる勢力が、必ず買ってくれるとは限りません。どのようにするかというと、裏で手を回してそのルートを確保する。地中海時代のアルージたちは自分で市を開いて、領民に売っていました。チュニジアのチュニスという港では、市を開いた跡を私もたくさん見てきましたが、今も残っています。ところがカリブ海の未開の島では、市を開いても、現地人はたぶん裸の人たちですから、買ってくれる人はいない。本国へ送らなければならない。誰が買ったかというと、この時代の特に後期になるとニューヨーク、ロンドンの商人なんです。これが高い値段でいろいろ買ってくれる。