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その沖で、ここはローマ帝国の領地ですから、もちろんローマ帝国の支配海域ですが、そこへ乗り込んで行って大きな財宝船を分捕ったのです。アルージ・バルバロッサ、「赤ひげ親父」と言われた海賊です。教皇の財宝船が乗っ取られたということで、キリスト教世界は大混乱に陥ります。小さな船でやったのですが、帆と櫂を備える大きなガレー船、黒い船を取り囲んで小さい船、ガレオット船という小回りの利く船を使って襲撃に成功したのです。

彼らは大変な勢力があって、それをやったことによってアフリカ北岸に拠点を持ちます。いまのチュニジア北部にカルタゴという古代からの港があって、西地中海と東地中海を扼する場所です。いまでもこの町が平和な遺跡として残っていますが、この周辺にいくつかの基地を持ちます。そうすると、アフリカ沿岸に残っているキリスト教徒の土地と、イタリアやフランス沿岸の諸都市との間の交易を大変に阻害されます。キリスト教国の都市は、阻害されて困りますが、イスラム海賊にとっては、たくさん船が通りますから略奪にこと欠かない。大きな勢力を持ちます。

エピソードはたくさんありますが、アルージが殺されるのはアフリカ北岸のアルジェです。彼は近くにいたキリスト教圏の王様を殺してしまい、アルジェも拠点にします。ところが、バルセロナの経済圏ともいえるアルジェを、取り返せということで、スペインのカルロス皇帝が大艦隊で攻めます。そのときに背後の内陸で背いた者がいて、バルバロッサが陸戦に赴いたすきに港を乗っ取られて、帰って行く川のほとりで殺された、と言われています。

彼は大変情け深い男で、自分は親衛隊に囲まれていますから安全だったのですが、川を渡ったときに後ろのほうで自分の部下が苦戦をしている。見捨てて帰ればよかったのですが、彼が言うには、俺にはそういうことはできない。いままで一緒に船の上で戦ってきた仲間を見捨てて戻るわけには行かないと言って、切り込んで行って死にます。

彼の伝記を残したのはイスラムの人たちですから、彼の美談として残したのかもしれません。しかしここでキリスト教徒の護衛つきの大きな船を、小さな船で襲ったということも、あるいは陸上でそういう戦いをしたということも、大変勇気のある、彼の性格をよく表しています。先ほど申し上げた、意欲の大変高い人だったということも言えます。

彼の最後の言葉です。なんと言ったか。

「幸運というものは勇敢な者だけについてくる。甘美な香りを伴ってついてくる」

 

 

 

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