もと自分たちに歯向かった海賊の船団に、後ろから手を回して食糧輸送を頼むわけです。彼らは技術者として大変優れた連中ですから、見事にドイツへの食糧輸送をやってのけます。大変窮乏していましたから、第1回の輸送が終わったときには大歓迎をされて迎え入れられます。これは嵐の日でした。北海の嵐というのはものすごいですから、封鎖していた船団がとても錨を上げられなくて、身動きが取れないというところに向かって、堂々と入っていって輸送に成功します。
それで2回目を頼まれます。大変な報酬をもらって第2回目を敢行します。今度は霧の中を進んで行って、これも見事に成功します。第3回目も、という具合で封鎖船団が身動きできない、あるいは封鎖船団の技術の及ばないところで成功してしまうのです。
この話が、食糧を運び込む兄弟であるとドイツ中に伝わって、スウェーデンの支所にいる本店とか家族とかの仲間がたくさん本土にいるわけですから、自分たちの仲間に運んでくれた食糧輸送隊「ヴィタリエンブリューダー」という名前でいまも残っていますが、大功ある義賊だと言われて、海賊変じて国民的英雄になるのです。シュトルテベッケルは、だから、いまでもドイツでは大変人気のある人です。展示したパネルに、ものすごい顔で写っています。皮にとげの生えた服を着ています。
ところがこれをおもしろくないと思う人間はたくさんいるわけで、シュトルテベッケルはやがて、拠点をオランダに移します。オランダの領主から場所を与えると言われて、オランダに移ったのが失敗のもとでしょうか。被害を受けた領主が連合を作って、この海賊を攻めます。彼に領地を与えた領主も裏切り、エルベ川の河口で取り囲まれて討ち死にします。それをやられたときの戦っているところの大変いい絵もありますが、3人がかりで取り囲んで、捕まるのです。英雄的な最後をとげる、ということなのです。
この男も、一言残しています。彼が処刑されているところの絵が残っていますが、そのとき処刑をするのは領主勢力の役人です。
「お前らはこの俺を処刑する権利がどこにある」
と、すごいことを言うのです。
「私利私欲にからんで、われわれを苦しめてきた領主の手先になって、お前らがわれわれを殺すなどというのは、キツネが人間に説教をするような茶番劇である」
というのです。
「俺を殺したところで、やつらの悪辣な支配が終わらない限り、海賊は俺以外にもたくさんいるから、海の波が消えないように、お前らの前から海賊は消えないだろう」