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仲介をしたキリスト教のお坊さんが「こんなにいい条件でここの土地を与えられたんだから、首領が出てきて王様と謁見しなさい」という仲立ちをするのですが、ロロが言うには「俺たちには首領はいない。全員がバイキングだから」という言葉です。

これは、海賊集団としては大変に意味の深い言葉なのです。先ほどのモラール、意欲をかき立てるためには、全員が、使われている人間と使っている人間、支配者と被支配者というかたちでいることは、戦いの上で大変弱いわけで、重要な言葉だと思います。「バイキングに首領はいない。全員がバイキングである」という言葉です。

いずれにしても、ロロは一番大きくて一番強いわけですから、リーダーとして王様と会見します。それで、あの地方を統治するお墨付きをいただきます。そのときにそこで仲介をしたお坊さんが「これをいただいたものは臣従の礼をとって、王様の足に口づけをするものですよ」と言うんです。「どういうふうにやるんだ」と言うと、ひざまづいて、こうやると言う。そこでロロはひざまづきます。ところがどうも靴に口づけをするという屈辱に耐えかねて、王様の足を乗せている靴台とそばにあったテーブルをひっくり返して、「俺はバイキングである」と言って自分の領地に帰っていってしまったという話が伝えられています。

つまりバイキングというのはそのように自立性の強い性格の集団だったということです。ロロという人物を数分間で紹介しましたが、増田先生から後で詳しくバイキングの実情についてお話しいただけると思います。

ちなみに、ロロの7代目の子孫がイギリスに攻めて行き、イギリスの王様になります。その何代後でしょうか。いまのエリザベスさんはその子孫です。つまり遠い遠いエリザベスさんの先祖が、このバイキングのロロだったということになっております。ですからイギリスはカリブ海時代から現代にかけて、世界の海に覇をとなえるというようなことをやるには大変うってつけの民族だったということが言えるでしょう。

バイキングはだいたい9世紀から11世紀、日本でいえば平安時代から南北朝時代、鎌倉初期ぐらいまでの間に活躍しました。中世に入るともう少し交易が盛んになります。地方の領主がどんどん勢力を伸ばして、ギルド制による工業も発達して、ヨーロッパでは大変に交易が盛んになります。原料の輸送、製品の輸送、穀物や繊維もそうだし、華やかな商品がたくさん運ばれるようになります。

その富がどこに集まるかというと、領主の下に集まります。特にキリスト教の教会勢力も強くなりますし、教会に基づいた領主勢力が富を集めるようになります。さらに、都市が発達します。たとえば、都市の同盟を結んだハンザです。ハンザ都市が発達するのに必要なもの、効率的に輸送するための船を確保したり、あるいは為替のやり取りをしたり、海賊から身を守ったりするための同盟だったと言われています。

 

 

 

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