ポンペイウスが亡くなって、ポンペイウス二世は、父親が手下につけた海賊の末えいをみんな生かしておきましたから、「海賊の頭目」といわれました。彼は海賊勢力を集めて、執政官のアントニウスと戦います。あわやアントニウスの命を取るというところまでいくのですが、この二世はちょっとお人よしでした。自分の船に、講和の条件の話し合いにアントニウスを招くのです。
「お前、いい船を持っているな」
とアントニウスが言うと、ポンペイウスは、父親がアントニウスに殺されていますから、
「ポンペイウス家に残っているのはこの船だけですよ」
と皮肉を言います。
大変立派だったポンペイウスの別荘はアントニウスに取られてしまっていまして、「われわれが招けるのはこの船だけです」と言って招きました。父親の時代に帰順していたメーナスという大変優秀な海賊で、ポンペイウス二世の手下になっているやつがいました。この男は頭が良くて、アントニウスが船に来たときに、
「ここで錨綱を切ったらローマはあなたの手に落ちますよ」
と、ポンペイウス二世に耳打ちするのです。そこで、ポンペイウスはふと考えた。彼がそいつの言うとおりにしていたら、たぶんローマの歴史は変わっていたであろうと、私も思いますし歴史家も書いています。
ところがこの二世はちょっとぐずで、決断できないんです。
「それは俺に言わないでやってくれたらよかったな」
などと言って、結局アントニウスと講和を結んでしまう。アントニウスは頭がいいですから講和を結んでいる間に船をたくさん作りまして、数年後にポンペイウスの勢力を絶滅させてしまいます。
ポンペイウスは、耳打ちされたときに海賊の知恵を採用して、錨綱を切ってアントニウスを海の上に出して殺してしまえば、おそらくローマの歴史は変わっていただろう。クレオパトラの鼻があと数センチ、数ミリ低かったらローマの歴史は変わっていたというそうですが、ポンペイウス二世さんの決断があと何秒か、あるいは頭の回転がもう少し違っていたら、ローマの歴史は変わっていただろうという、海賊がらみの話があることをご紹介しておきます。
これは派生的な問題ですが、陸上では絶対にやれないことが、海の上ではやるチャンスが生じる。その情勢を洞察するセンスであり、決断力です。資質の問題です。