日本財団 図書館


つまり、征夷大将軍とか太閤とか、国家権力の執行者が「通航料を支払え」とか、「それは禁制品だ」とか言って、貨物を取り上げても略奪とは言われない。しかし、それらの権力に属さないものが、これをやれば、それは「海賊行為」だというわけです。

では、サモス島の僭主ポリュクラテスの場合は、どうなのか。国家権力なのか、海賊なのか。彼を王として認めないギリシャ人の歴史では、彼は海賊であり、サモスの側に歴史家がいたら、国権の発動という解釈をするかもしれません。

日本の場合でも、10世紀の藤原純友という人物は日振島などを根拠にした海賊ですが、サモス島の王の場合と類似していないこともない。つまり、海賊行為とは、同じことでも権力の側に立つ人間がやりますと、これは一転して秩序の維持になるわけです。

その海域で権力を振るっている人間が「お前らはここを通ってはいけません。お金を払わずに通ったらだめです。これはわれわれの規則である」と言って法律として適用するのですから、要するに海賊行為というのは、一面では後ろに権力があるかないかによって決まります。

歴史上には頭のいい海賊もいまして、そのへんの矛盾をつくのです。矛眉をついたのは、地中海にいたディオニデスという名前の海賊です。これはドイツの学者さんが17世紀に学説を発表する2000年以上も前の紀元前4世紀に、自らの学説だか哲学だか知りませんが主張します。誰に対して主張したかと言うと、相手は歴史上有名なアレキサンダー大王なのです。

アレキサンダー大王というのはインドの北のほうまで攻めて来たり、エジプトも攻め落とし、大帝国を築きます。そのためには軍隊を動かしますから、軍隊が行ったあとに補給が必要です。ギリシャ北方の出身の人ですが、エジプトを攻めて行けば、周辺地域から集めた小麦とか保存食品、ワインなどを盛んに送ります。それをエーゲ海の島で待っていたディオニデスがさかんに略奪するのです。そうなるとアレキサンダー大王は大変困り、いったん兵を戻して、このディオニデスを捕らえます。

そこでディオニデスが言ったことは、

「お前はあんな北の方から出て、アジアの方まで行ったり、エジプトに行ったりして国々を略奪して回っているではないか。私は、お前の船を略奪しただけだ。同じことをやって、何で俺が悪いのか」

という言い方をします。

アレキサンダー大王も負けてはいないで、

「俺は国王だ。お前はただの海賊ではないか。お前にはそんな権利はないんだ」

と言います。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION