それが中世以降になると、こんな風になってきます。たとえば、愛媛県の来島海峡あたりは、私どももヨットで何回も往復していますが、潮の流れだとか、島が複雑で行くたびに難しい、大変通航しにくい海域です。そういうところを漕ぎ舟だとか帆で渡ろうとすると、どうしても海域に詳しい人が必要であったり、潮待ちのためにどこかに入らなければならないという必要が生じます。九州から大阪周辺へ荷物を運ぶ、あるいは人間が行き来する、武器を運んだり物資を運んだりする。そういう人たちが必ず来島海峡のどちら側かで、潮を待ったり天候を待たなければならないのです。
そういときに、そこに占拠していて、その海域に詳しい人たちは「それではここに泊めることを許しますよ」、あるいは「ここを通るときは水先案内をしてあげましょう」、あるいは船に乗り込んで「一緒に運んであげましょう」というかたちでお手伝いをします。
困ったときだけ手伝ってもらって、スムーズに行けるときはいいのかというと、そういうわけにはいかない、というお付き合いが生じて、「ここを通るときには荷物の何パーセントの通行料を払ってください」というかたちに当然なってきます。そういうかたちで組織的に海域を支配するかたちになります。
ところが「あんな連中に払わなくてもいいじゃないか」などと言って通ると、「お前ら払わないのだったら」と言って略奪が行われたり、対立が起こってきます。瀬戸内の海賊というは、主にこの海域支配の状況から行われたものであると思われます。
これが成立するためには、その海域を自分で支配できる権力がないといけないのです。京都あたりにいる支配者が、「あんなやつに払わなくてもいいよ。歯向かうのだったら俺の水軍を向けて護衛してやろうじゃないか」と言って支配が始まりますと、海賊の海域支配は通用しなくなります。
日本でも織田信長、特に豊臣秀吉あたりがそういう考え方を持ち出してきて、海賊の勢力はかれらの水軍という形に変化します。その海域のことをわかるのは彼らしかいませんから、お前らに任せるのではなくて、お前は俺の支配下でそれをやれというかたちで、大名や領主の支配のもとに入ってしまいます。
そうなるとこれは海賊ではなく、一つの支配者の権益として行われることになります。そこで見えてくるのが海賊行為とは何かという基本的な問題です。
古くから海賊の研究は行われてきたのですが、17世紀にドイツの偉い学者さんが、海賊行為とは何かという定義をしました。彼によれば、それは、いかなる権力にも属さない存在である。日本でも、「海上権力史論」というような研究が行われています。
