船で略奪した古典的な海賊の話が、他にもあります。紀元前8世紀ぐらいでしょうか。これは遠征して略奪したわけではなくて、「お前の荷物を運んでやるよ」と言って荷主と一緒に荷物を運んできた途中で、コリントスの船員、といいますからフェニキア人ではないのですが、ほぼ同じ時代のことです。
船員が、荷主に対して、たいへん恐いことを言うのです。
「陸地で眠りたければ、ここで自分で命を絶て。そうしないのなら海の中で眠らせてやる」と言ったというのです。つまり歴史上初めて出てきた海賊は、荷物を運んでやりながら、その荷主に対して、自分でここで死ぬか、それとも海に放り込んでお前の荷物はわれわれのものにするか、どっちかだ、というかたちで略奪したと伝えられています。
この話は神話にもなりまして、「じゃあ、俺は」と言って、荷主は海に飛び込む。するとイルカが現れて、イルカが荷物の揚げ地まで背中に乗せて運んでくれた。イルカに乗った少年だか老年だか知りませんが、イルカに運んでもらって、揚地で待っているとその船が入って来る。動かぬ証拠ですから、海賊はめでたく捕まってしまった、という話が残っています。イルカに乗った少年というのはそこから生まれた神話だと言われていますが、その背景には、地中海の最も古い時代の海賊の姿が映し出されています。
そのようにして、地中海で始まったといわれる海賊行為ですが、そのあとさらに通商が発達すると、ギリシアの勢力が大変強くなって、各地で産物が輸送されるようになります。それを手当たり次第に奪ってしまったという1人の人物が現れます。
エーゲ海東部、小アジア西岸のサモス島というところにポリュクラテスという、小さな国の王が現れます。3人兄弟で船員、あるいは荷運び人夫から成り上がった人物とも言われていますが、こんなに荷物があちこち往来するのだったら、誰のものか知らないけれども自分のものにすれば、もっとお金になるじゃないかと考えたんだそうです。この人物の言葉が、またすごい。こういう考え方の人だったそうです。
「物を人にあげればただ感謝されるだけだけれども、一度奪っておいて、それから返してやればもっと感謝されるよ」
というのが、ポリュクラテスさんの処世哲学だったそうです。