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その本の出版は20年ほど前ですが、その後、私が自分で海賊の本に書いた場所を回って見つけたり、ほかの仕事で見かけた本を加えると、ゆうに百冊を超えてしまいます。私個人の収集でもそれだけですから、膨大な海賊の記録が地球上には残っていることになるでしょう。その中から、ごく親しみのおけるというか、興味のある人たちを紹介しながら、海賊行為というものがどのように発展し、どんな人物がいたのだろうか、ということを、皆さんと一緒に考えてみたいと思います。

まず最初に、海賊の歴史を書いた人によると、海賊の歴史は船とともに始まったのだそうです。これは、全く当たり前のことですが。

船を持つことは、社会にとっては大変お金のかかることでして、足舟を漕いだり、1人で丸木舟を漕いでいるという状況では、なかなか海賊行為というのは、しにくいと思います。仮にやったとしても、海の上で相手の持っているものを奪うということはなかなかやりにくいでしよう。

一番原初的というか、最初のやり方は、遠征して行って略奪する。遠征といっても、わざわざ戦争を仕掛けるということよりも、自分の持っているものを物々交換で運んで行って、穀物を持って行って織物と交換する。あるいは魚を持って行って野菜と交換するという原初的な通商の変化した形です。通商を装って、その場で物品を奪ってしまう。地中海あるいはメソポタミアあたりで行われていて、海賊というのはどうもそのへんから発達したと言われています。

一番古い記録だと、皆さんご存じの『オデュッセイア』という叙事詩があります。地中海で、戦さから帰る船が各地に寄港しながら航海するという物語りです。あの中に歌われているもので、交易のために来ていた人たちが、着物などを町で売っていて、それをその土地の女性たちがたくさん買いに来る。中で一番美しい女性をひっ捕らえて連れて帰ろうという行為、略奪というのでしょうか、これは人身誘拐ですが、それによって有名なトロイ戦争が始まったという記録があります。

つまりそこでは、遠征して行って、略奪するというかたちがとられます。これを一番たくさんはたらいたのは、地中海の通商民族として交易を支配していたフェニキア人と呼ばれる航海民族です。彼らは大変活発にこれらの行為をはたらいたと言われています。

さて、その時代を言葉で説明していきますが、その人の人柄を紹介するには、その履歴などを並べるよりも、発言した言葉に一番よく表れるそうですから。ときどき、その言葉で誤解を与えたりする人もいるようですが、人が口を滑らせたり、信念を持って言った言葉は、人柄をすべて表すと言いますから、ここでは、象徴的な言葉を取り上げながら、各時代の特徴的な海賊をご紹介します。

 

 

 

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