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荷役はみんな回教頭巾のようなものをかぶった人たちが、頭上に乗せて運ぶものですから、大変に時間がかかります。そんな状況で、たくさん、前の船がつかえているのです。

私どもが行った1960年代は、1万トン級の貨物船が川の中に3週間ぐらい、ほぼ1か月も錨泊して、荷役の順番を待っているんです。そうすると、周辺に住んでいる人たちは、どうも変なのが来てゴミは捨てるし、いい物を持っているみたいだというわけでしよう、夜中に船に登ってきて、船の上にある物をみんな持っていってしまうのです。ロープを持って行ったり、そのへんにある甲板の道具を持って行ったり、消火器がなくなったりするのです。

これはいわばこそ泥ですが、彼らは棒を持っていて、たまたま顔を会わせると殴りかかってくるという話もあり、われわれは「海賊ワッチ」と称しまして、夜中じゅう、番をして見張っていました。

彼らはどんな船で来るかというと、伝統的なアラブの船で、セールで上げて来るやつもいるし、漕いで来るのもいる。錨鎖を伝わって上がって来て悪さをするというかたちです。これは、言ってみれば、小さな海賊です。私はこの航路に1年半くらい乗船している間に、だいぶ被害にも遭い、追い返したこともあるし、姿も見ているのです。

その後、私たち自身が海賊と間違えられた経験もあります。ヨットに乗って某国の領海に入っていきました。無害通航という国際規定があり、害を与えないで通航することはいいのですが、事情があって沿岸の近くに入っていったら、海軍の警備艇が近づいて来て停船を命じられました。自動小銃を構えた兵士が何人かド、ド、ドっとヨットの上に乗り込んで来て、われわれの艇を拿捕しました。艇長は小林則子という女性でした。私は艇長ではなく“提督”です。

7人か8人の乗り組んだ船の船長が女性なのですが、これがめっぽう気が強く、自動小銃を持って乗ってきた5人か6人の兵士に対して、「靴を脱ぎなさい」などと、命令している。ヨットはプラスチックでできていますから、兵士が野戦用の靴で上がってくるとデッキに傷がつくというので、靴を脱げと言っています。

しかしどうも相手には言葉が通じなかったらしく、自動小銃を突きつけられて囲まれました。警備艇にロープを取られて、むやみやたらに曳航されました。4〜5時間引っ張られている間に相手の船を見てみると、向こうは船尾から大砲をこちらに向けているのです。

 

 

 

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