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今日の宗教社会学の見地からアプローチするならば、後に心学と呼ばれるようになった梅岩が、町や村の人々に説いたメッセージは、宗教的なものと呼ぶことができるかもしれません。しかし、これはまた哲学的あるいは倫理的なものと名づけることもできます。梅岩自身にとって意味をなしたであろう用語、すなわち「学」あるいは「道」として心学を考えるのが最善なのかもしれません。心学は単なる一連の思想ではなく、訓練あるいは自己修養の一つの形です。これは自己との関係の意味を含んでいるだけでなく、自分と他人との関係の意味を含んでもっているのです。実際、梅岩にとって、自己達成あるいは啓発は他人との正しい関係においてのみ可能でした。

孔子のように、梅岩はクリエーター(創造者)というよりは伝達者でした。梅岩の教えが新しいというより、梅岩は教えを生き生きとした形で具体的に表現したのです。『石田先生事蹟』のぺージの中に現れる生き生きとした人物は伝統的なステレオタイプを打ち破るものであり、心を培い思いやりをもって他人に接することができるようにするためには、人間が何をすべきかを私たちに直接語りかけてきます。仕事上の行動に関する梅岩の説諭は、梅岩の時代と同じく、現代の私たちにも適切なものです。

 

 

 

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