ベラー先生が講演でも指摘されているように、梅岩の学問と思想、そしてその行動は、政治の道とは無縁であり、ナショナリズムとは無関係でした。高等小学校の修身の教科書に大きくとりあげられていた石田梅岩が、昭和九年(一九三四)のころから姿を消すのも、たんなる偶然とはいえません。
「先も立ち、我も立つ」、人間関係のあるべき姿をたえず探究し実践した石田梅岩の思想と行動は、新しい人間の学のあるべき方向に大きな示唆を与えます。こころとかたち。かたちのみが先行して、こころを見失った現在のわれわれにとって、かたちのゆがみを問いただし、こころの重さと深さを再発見することが、今や新世紀の大きな課題のひとつになっています。こころの教育というよりは、教育のこころが問われているのではないでしょうか。政治や経済のこころの発明が必要です。石田梅岩はたんなる知識の人ではありませんでした。知恵を生かし行動し実践した知行一体の先学でした。石田梅岩の学問と思想、そしてその行動には、今もなお学ぶべきものが秘められています。