日本財団 図書館


「心ヲ尽ス」とは、自分の考えを出しつくすことであります。自分の考えをどこまでも追究していくと、どういうことになるかと言うと、出来事としての事実だけが残ります。事実とは結果であります。結果と心が一体化したものが、人間の本質であるところの「性」ということになります。仏教ではこれを「物心一如」と言います。物とは物質ということではなく、事物、ものごとの意味です。

人間は自分に好都合な、いい結果だけを求めていろいろに考え、様々に努力を続けます。しかし、それは逆なのだ、ということであります。自分の置かれた状況、状態を的確に見究めることが先決であります。見究めるところに次のステップが生まれます。事実を把握して確実に次の段階に進む力を生み出すのが本当の知、知恵であり、それは直観と言ってもいいでしょう。

ですから、尽心知性の四字の中でいちばん大切なのは「知」の一字です。この「知」と言われる直観のはたらきは、自分をも人間をも超えた綜合的なはたらきをもっているのであります。それこそが本当の「心」と言えるのであります。そこで儒教ではこれを「天」とも「天理」とも言うのです。このように儒教のお悟りは非常にリアルであり、現実性、社会性に富んでいます。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION