ともあれ、石門心学の中では、学祖である梅岩のたった一人の指導者、先生であるということで、長年にわたり尊敬され、大事に扱われてきたことは確かであります。何にも増して梅岩に幸いしたのは、小栗了雲が悟道に徹した悟徹の人であったことで、二、三年の短期間ではありましたが、了雲は梅岩の心の奥底まで鍛え抜き、深い境地を体得せしめ、その後の十五年にわたる梅岩の教化活動に確固不抜の信念を与えたのであります。
人間の本質を知る
石門心学のモットーとするところは、「尽心知性」であります。尽心知性とは、儒教の古典である『孟子』に出てくる言葉です。『孟子』の終わりに尽心章という一章があり、その冒頭に次の有名な言葉が出てくるのです。
「心ヲ尽ストキハ性ヲ知ル 性ヲ知ルトキハ天ヲ知ル」
これはいわば儒教のお悟りで、言葉による説明のできない問題でありますが、一応の説明を試みましょう。