梅岩は、そうした社会情勢を、政治や経済の問題として解決しようとしたのではありませんでした。教育制度やせいぜい表向きの道徳問題として、論評したり非難したりしようとしたのでもありませんでした。今の社会情勢の本当の原因は、一人ひとりの人間の心にあるに違いないと考えたのであります。そしてまた、一人ひとりの心にその解決の鍵もあるに違いない、と考えたのであります。「自分自身とは何か」ということを毎日起こる実際の出来事と結びつけて考えたのであります。「人間とは何か」ということをめまぐるしく変化する社会情勢と的確に結びつけることによって解決をはかったのであります。
儒教は本来そうした生活の上に立った教えとして、すぐれた社会性や高度な政治性をそなえた宗教でありましたが、当時行われていた儒学・儒教の中にそれを求めることは困難でした。そこで、梅岩は人間の問題に解決を与えるべく、独学で儒学・儒教に立ち向かっていったのです。
