日本財団 図書館


二度目の奉公先は、「黒柳(くろやなぎ)」という呉服商でありました。宝永四年(一七〇七)のことで、梅岩二十三歳のときであります。この奉公は梅岩にとって恵まれたもので、梅岩の将来へ大きく道を開くことになります。殊に、この店の女主人が梅岩を非常に信頼してくれたこともあって、梅岩はそれから四十余歳までの二十年間、奉公のかたわら勉学を続けることができたのです。

梅岩の勉学は本を読むことだけではありませんでした。都会の生活で見聞きする様々の出来事、毎日接する多くの人々からも、たくさんのことを実地に学び取ったに違いありません。厳格な家庭環境に育った梅岩の眼から見た、当時の商人の有様はどうであったでしょうか。貨幣経済の主導権を握って、新興階級として伸(の)し上がった商人は、ほしいままに暴利を貧りました。その得た金で相場の買い占めをする。高い金利で金を貸す。そのお金の力の前には大名も旗本もみな屈服せざるをえなかったのであります。しかも、商人の生活は豪奢の限りを尽くして、おのれさえよければといった他を顧みることのない社会悪が公然と横行したのであります。商人は「二重の利を取り、甘き毒を喰(くら)ひ自(みずから)死するやうなること」をしていると、梅岩は後に著した『都鄙(とひ)問答』の中で書いております。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION