ただ、われわれが「日本政府はいつ公式に提案するのですか」と質問したところ、彼は「いや、日本にはそのような発言権はありません。これはアメリカに提案してほしい」と答えました。結局、その四年後にジスカールデスタン氏がこれを提案したのです。
また、一九八○年代の終わりに、中南米の債務問題の対策について、G7で宮澤喜一氏が提案したのですが、当時のアメリカは断りました。しかし、一年経って「ブレイディ構想」という名前で、宮澤提案とほとんど同じものがアメリカから提案されたのです。日本は非常に礼儀正しく、黙って、何も文句を言わずにブレイディ構想を受け入れたのですが、実際には宮澤案にほとんどそっくりなのです。日本が自分の提案だと主張しないうちに、アメリカは同じ言葉を使ったのです。だから、提案をするのであれば、アメリカにつぶされると文句ばかり言わないで、もう少し力を入れて提案をすべきだと思うのです。
ところで、皆さんは日本人のアイデンティティを探しているような感じがするのですが、これこそ心配ないと思います。日本人は必ず無意識のうちに日本人らしさを守るということを確信して発言しています。まったく問題はないのです。
問題があるのは、その日本人らしさの説明を第三国の人にしていないということ、あるいはすることができないということなのです。