しかし他方、中国を排除した形の東アジアの協力体制というのは考えられない。近隣アジアが安定、繁栄して、これらの国々と友好関係を維持する、相互依存関係を深めるということは、中国にとっても有益なはずである。
もう一つ、この構想のかなめはASEANであゐ。ASEANは、経済危機とインドネシア情勢の混迷で一時より色あせた感じがするが、依然として南の世界のホープであることには変わりない。いずれまた世界経済の牽引車の役割を果たすことが期待されている。その上にASEANは多様性を踏まえた協力機構である。仏教国、キリスト教国、イスラム教の国が緩いきずなで結ばれて協力を進めている。ASEANは日本にとって経済的に重要な地域で、昨年日本の二国間ODAの四割近くがASEAN十カ国に対するODAであった。岡崎久彦氏(岡崎研究所所長)は、「ASEANは日本の金城湯池だ」という言い方をされた。
その上にASEANは戦略的にも日本にとって枢要な地域である。すなわちマラッカとロンボクの両海峡を地域内に持っているのである。ASEANの基本的な対外政策は、域外の大国のバランスをとり、アメリカ、日本、欧州、中国のどの一カ国、一地域の勢力圏にも入らないということであるが、将来このバランスが大きく崩れるとしたら中国である。ASEANが大中華圏に組み込まれるおそれが全くなしとしない。