別の観点からは、軍事力や富が支配する今までの文明に代わって、知的影響力、つまり他人や他の国に影響を与える手段が、最初は軍事力、その次は富の力であったのが、新しい文明では知的な影響力が重要なツールになる、いわば知識文明になるという洞察が行われている。
日本の文化あるいは文明の中には、これから生まれてくるであろう、近代文明を超えた新しい文明の形成に貢献できる要素が、実はいくつかあるのではないか。例えば和を重んずる寛容な精神が一つの例で、これが一番典型的に出ているのが日本人の宗教観であろう。キリスト教とか、ユダヤ教、イスラム教のような一神教とは違う、寛容な精神である。それから、自然との共生の思想がある。これには、その系として、慎ましさとか、資源を大切にするというのも含まれている。川勝平太氏(国際日本文化研究センター教授)は、「省資源型のガーデン・アイランド国家」ということを言われた。さらにはネットワークの重視がある。これも個人主義とか論理を貫徹しがちな西洋近代文明にはない日本の特色で、これまではこういうものが近代文明の中では欧米と違うということで異端視されていたが、超近代文明ではむしろ普遍的なもの、本流になる可能性を秘めていると考えられる。これは日本が世界に対して知的貢献をするということを意味する。日本人は知的貢献をするのはあまり得意でなく、プレゼンテーションの力が弱いとか、英語の力が弱いとか、いくつかのハンディキャップを負っているが、これが日本にとって大変なチャレンジであることは間違いない。もしこの面で日本が貢献できれば、文明の歴史に日本が名をとどめることになるのではないかと思う。