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秋元一峰 海洋から国家の安全保障のあり方を考えるとき、勝海舟が言ったという話を思い出します。すでに隠居中の勝海舟のもとに若い海軍士官がやって来て、「日本の海軍いかにあるべきか」と問うたところ、「日本は海軍など持たないほうがいい。あんなもの持ったら、日本の方が滅びてしまう」と答えたそうです。若い海軍士官が「もうろくしたか」と怒って帰った後、お付きの者が問い質したところ、勝海舟は「海軍というものは、他国の海岸線まで支配し得てはじめてその意味がある。日本がそんな海軍を持とうとすれば、国が疲弊する」と言ったのだそうです。

これは大変に示唆に富んだ話であると思います。歴史上、海洋国家は、海軍力によって海洋を排他的に支配できる状態をつくって海洋を利用し、国家を繁栄させてきた面があります。しかし、そこには、海軍力と共に同盟戦略があったことを見落としてはなりません。海洋国家戦略とは同盟戦略にほかならないのではないかと思います。

カルタゴがローマに滅ぼされ、そのローマも、自らの海を閉鎖海として発展の芽を摘み、代わって、スペインとポルトガルが外洋に出て繁栄するが、イギリスとオランダにとって代わられ、オランダもイギリスに滅ぼされ、世界の海を支配したイギリスも、やがて国力の疲弊の中で海洋力を縮小していく。

 

 

 

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