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また、シンガポールはあてにできない。シンガポールは九二年以降、ほぼ中国と同じことを言っており、中国の言うことを先回りして言うことさえある。九六年まで中国は、台湾の国連加盟反対をまったく言っていなかったが、リー・クワンユーが台湾の国連加盟反対を言ったすぐ後に、中国の外相がそのことを言った。これは偶然ではなく、連携プレーでないかと思う。

こうして、中国の影響がシンガポールにまで及ぶとなると、日本の金城湯池である東南アジア全部が中国の勢力下に入ることになる。中国が米国の覇権を脅かすということは、軍事的にはあり得ないが、東南アジア全体を勢力下におさめれば、政治的・軍事的に一つの対抗する極になり得る。そうなると国際政治の大きな変動要因となるため、台湾をとられるかということだけで、大きな問題が生じるのである。

台湾問題を論じる物差しは、中国側にとっては屈辱の近代史であり、国民感情であり、台湾側にとっては、民主主義、高い生活水準、自立自決の概念である。そして、双方とも、国際法あるいは衡平の原則について、それぞれ正しいと信ずる解釈を持っている。

他面、戦略は元来amoralなものであり、中台問題に米国、日本、東南アジアなどの戦略的関心、あるいは地政学的分析を持ち込むことは、国際正義や衡平の原則に悖る、非道徳的または不道徳的な行為であるという非難を招く。

しかし、国家間の関係では、戦略的利害はそれが極めて大きく国家の存立または既存の世界の安定構造を脅かす場合には、正義衡平の原則を乗り越えるのが常である。台湾問題がそういう潜在性を蔵している疑いは、今まで明言はされていないが、常に台湾問題の背後に存在するのである。

 

 

 

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