さらに、日本にとってもっと心配なのは、南シナ海が事実上中国の海としてその制海権をとられ、南シナ海にしか出口のない国々―タイ、ベトナム、マレーシア、カンボジア、ラオスなど―が中国の勢力下に入ることである。制海権をとられると、中国は西沙(パラセル)諸島に航空基地をつくっており、海南島と西沙(パラセル)諸島の航空基地を使えば、完全に制空権を持つ。米国の空母機動部隊が、たまたま通過するときは米国が制空権をとれるが、常駐するわけにはいかない。
そうなると、日本にとって困るのが、特にタイがフィンランド化することであり、事実、それは始まりつつある。かつてタイは中国の南シナ海進出を懸念して、日本に日タイ合同演習を提案したが、日本は集団的自衛権につながるとして動かなかった。その頃はそうした動きがあったが、日本が動かないと、タイは中国の意向に逆らえなくなり、フィンランド化するのである。日本が集団的自衛権を行使しないために、チャンスを失っているのである。
そうなると、今度は東南アジアで一番懸念されるのが華僑の動向である。例えば、インドネシアの華僑は台湾系がやや優勢であるが、もし台湾が中国にとられるとすべて中国系となり、今でも華僑系の発言を抑えるのに非常に苦労しているのに、華僑を抑えられなくなって、中国の勢力範囲に入ってしまう可能性がある。