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あれば、逆に全部それを入れたようなシステムに変わっていくのは当然である。そうしないと、競争に勝てない。だから通常、最適状況というのはゆらいでいる。今まではゆるぎない国家とか言って、ゆらがない方向への努力がなされ、価値観というか、モラルとしてもゆらぎは不届きだという感じになっていたが、今後はゆらぎを許すような方向に反転するだろう。

ゲノムとか、宇宙とか、新しい情報が大噴出し出して、とにかく先行きがわからないわけで、それに対応するというのは、ゆらぎの中で一番大きな未知のものにぶつかっていくことである。ゆらぎ対応のフレキシブルなものとして、ナビゲーションの考え方があるが、多くの可能性があって、その中でどれをとるかということは、まさに未知の海を航海(ナビゲーション)するのと同じである。ゲノムでは、ものすごく多くのデータが出てきており、片っ端から従来の工業的手法で研究することは不可能である。シミュレーションで一種の仮想ナビゲーションをやり、これが最も可能性が高いというルートに絞って、優先順位をつけて、それから資源配分していかないとできない。どのくらい絞るかというと、大体一万分の一ぐらいに絞らないと、とてもゲノム創薬などでは実用化できない。例えば、実験用のネズミ一万匹と一匹では全然開発スピードも違うし、コストも違う。

また、ロケットのトラブルの例でも、昔は全部ハードウェアでテストして解明した。そんなことやっていたら、時間的にもコスト的にもとてもトラブルを直せない。あるいは風洞実験も、超音速用風洞をつくるのにはまず発電所が要る。今なら、全部シミュレーションで、ハードウェアは何も必要ない。そのかわり、シミュレーションのソフトウェアのレベルをうんと上げないとだめで、そのソフトウェアをつくるのにものすごく資金が必要となる。今では、ハードの開発というときも、知的なナビゲーションのソフトウェア手法の意味が大きい。要するに、ナビゲーションに象徴されるような、「複雑系」の理論を応用することが不可欠な時代になったのである。

 

 

 

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