第二章 情報革命時代の海洋国家構想
[問題提起] 石井威望
一. はじめに
情報の概念は、物質やエネルギーのような実在するもの(リアルな存在)ではなく、仮設的な存在(バーチャル・リアリィティ)であり、二十世紀中葉にいたって漸くシャノンの情報理論などを足掛かりに、適切に整理され体系化されたが、それまでは、必ずしも学問的研究対象にされていなかった。その経緯は、数学における虚数i(マイナス1の
方根)の導入に似ている。近代以降の数学は虚数iを抜きにしてはほとんど成立不可能である。ごく最近では、記号iはインフォーメーションの略(頭文字)であったり、「iモード」(インターネットヘ接続できる携帯電話)のiであったりしている。要するに、代表的なデジタル情報通信ネットワークであるインターネットを、「i」という接頭語に凝縮して、それを在来の事物Xに対して「i-x」の形で融合することによって新しいキーワードとして新展開を図る手法が拡がり始めている。その流儀に従えば、本稿は「i海洋国家構想」と言い換えることができよう。
そこで最初に、「i海洋」について考察を加えたい。物理的な存在としての海洋を実数「a」に対応させ、i海洋を虚数「bi」に対応させると、複素数「a+bi」に相当するのが“複雑系”的な二十一世紀の海洋ではなかろうか(複雑系の解説は後述)。