それから海洋民族の特色のひとつとして、これはフェニキア人に代表されるのですが、陸地にあまり関心を示さないということが挙げられます。フェニキア人やカルタゴ人は、あれほどの海軍力を持っていたにもかかわらず、シチリア島でも、あるいはアフリカでも、単なる経済基地としてしか陸を考えず、領土獲得など考えなかった。ですから、シチリア島に行ってみると、フェニキアの、つまりカルタゴの基地というのはせいぜい港湾施設だけです。ところが、ギリシャはそこに植民して都市をつくり、神殿、劇場、何から何まで見事に仕上げている。ギリシャ人は島全体をギリシャ文化圏にしようとしたのですね。このように、同じ海洋民族でもそれぞれ違いがある。それらひとつひとつを比較して、「海彦」と「山彦」の性格を民族心理学的に研究していけば、大変面白い結果が出てくるのではないでしょうか。
では、日本人はどうなのか。先にも申しましたように、「日本人は海洋民族だ」と言っていたのは、ただ掛け声だけで、軍部においても陸軍の意向が圧倒的に強かった。ですから、負けたのですよ。世界史を顧みますと、海を制覇した者が必ず勝っている。アメリカの一極支配の原動力も、その海軍力にある。旧ソ連がアメリカになぜ覇権を譲ったのかと言えば、海軍力が劣っていたからです。