結局、海上覇権国というのは陸上覇権国とは違った条件の中で生きているのであり、そのゆえに違った戦略を持たなければならない。しばしば陸上覇権国というのは、オスマントルコにせよ、フランスにせよ、ドイツにせよ、ソ連にせよ、自分の国一国の力だけを頼りにして、しかも直接の力、むき出しの力によって、自国だけの利益を追求するという路線をとりがちです。
これは戦略論では「直接戦略」と言っていますが、これに対して海上覇権国は、まず第一に同盟国を持たなければいけない。そして、その同盟国をリードするリーダーシップを持たなければいけない。これは「間接接近」の戦略論と言いますけれども、例えばイギリスなどは意識的に「イギリスの覇権を疎ましく思い、あるいは嫉妬する国がないはずはない。しかし、どこの国もイギリス以外の国に覇権を握らせるくらいなら、まだイギリスに握らせておいたほうがましだと思えるような、したがって、その限度において自分のことだけではなく世界全体のことを考えた戦略をとるならば、イギリスの覇権は永続するであろう」という戦略を採用し、その結果として、自由貿易政策とか中小国の独立擁護とかの政策をとっています。それが最終的にパックス・ブリタニカが長続きし、ドイツの二度にわたる挑戦が失敗した一番本質的な理由だと、私は思っています。冷戦期におけるアメリカとソ連の違いもそういうことではなかったかなという気がするわけです。