例えば、ローマが地中海を舞台とした海洋国家になり、それによってローマ帝国をつくり上げますが、やがて地中海はローマによる一種の閉鎖海になったかのような時代を迎えます。それを、「閉鎖海洋世界」と呼ぶことができます。地中海に「閉鎖海洋世界」がつくられている間に、ちゃっかりと栄えていた、鄭和が活躍したインド洋海洋圏は、「トランスナショナルなユーラシア海洋世界」と言えるのではないでしょうか。やがて大航海時代を迎え、海洋国家が「閉鎖海洋世界」から外洋に出ていきますが、ここではレパントの海戦が非常に大きなエポックになっていると思います。レパントの海戦後、大航海に海軍力が伴うようになり、それが国家のシーレーンを延伸させる力となり、国家のシーパワーの概念が形成されていきます。「海洋の自由」という名に置き換えられた、つまり、海洋国家の覇権によってつくられた海洋世界としての、「自由海洋世界」が誕生しました。その後、第二次世界大戦後の冷戦時代、わずか五十年の世界でありましたが、パワーバランスが海洋世界にも入り込んできて、「パワーバランスの海洋世界」がつくられました。
歴史上、海洋国家は、それぞれの時代の海洋世界のパラダイムとの調和とかかわりの中で、繁栄を得てきたのだと思います。現在は、海洋もグローバル化の時代を迎え、それから、国連海洋法条約の発効があって、「管理の海洋世界」が開けつつあります。これからは、そのような「管理の海洋世界」との海洋国家のかかわり方が、海洋国家の発展の方向性を決めることになると思います。