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けれど、よくよく歴史をふり返ってみると、日本人で勇敢に海へ乗り出していった、という人物はほとんど見当たりません。荒海を乗り越えて未知の世界をめざす、あるいは、積極的に海を利用する、といった発想を、日本人はあまり持たなかったようです。縄文時代の遺跡からは海を利用した地域間の交易を示すものが出土していますから、もともとは海に囲まれた民族らしく「海の民」の性格を持っていたはずなのですが、次第にそれが希薄になってしまったのでしょう。江戸時代の鎖国政策が、それに拍車をかけた。日本海海戦での勝利が、記憶の底に眠っていたものを目覚めさせたと見ることもできます。そして、太平洋戦争での敗北が、再び海洋民族としての意識を失わせてしまったように思います。

しかし、これからは、「海」からの視点、「海」への視線をあらためて意識しなければならないと私は思います。二十一世紀、陸上資源の枯渇が心配されています。今後は海の資源をどう利用するかが問題になるでしょう。世界がますます相互関係、相互依存を深めていくなかで、交易、軍事、その両方の舞台となり得る「海」の存在は、いよいよ重要ものになっていくはずです。そして、また、世界史の舞台が地中海、インド洋、大西洋とひろがっていったことを考えますと、二十一世紀は、まさしく太平洋の時代、ということにもなると思います。

 

 

 

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