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アラビア人は、先にも申し上げたように交易の場を求めて海へも乗り出しました。まわりはほとんど「海の民」ばかりなのに、なぜか、ユダヤ人は海を極度に恐れました。

そのいい例は、『旧約聖書』に語られている「出エジプト記」でしょう。モーセに率いられてユダヤの民が紅海を渡るところです。海が開いてユダヤの民を通し、あとを追ってきたエジプト軍が渡ろうとすると海はもとに戻り、エジプト人は溺れてしまったというくだりです。これは、おそらく潮がひいて浅瀬になったところをユダヤ人たちが渡っていったのだ、ということではないかと思われるのですが、逆に見るなら、彼らはそこを渡れないがために長い間奴隷生活に甘んじなければならなかった、ということにもなる。

エレミア書には、「神は砂浜を海の境と定め、海はそれを超えることはできない」という表現があります。彼らにとって想像を絶する厄災が洪水、つまり水の脅威だったのです。

このほかに「陸の民」を挙げるとすれば、ロシア、ヨーロッパ内陸の国々、そして、鄭和以後の中国ということになりましょう。

 

それでは、日本は明治以降、「海洋民族」になったのでしょうか。さきに述べたように、日本は日露海戦で「陸の大国」ロシアを破り、世界史に躍り出ました。ところが、太平洋戦争では「海の大国」アメリカに敗れた。ですから、戦艦大和の沈没というのは、この意味で、たいへん象徴的な出来事です。

 

 

 

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