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スペイン、ポルトガルがその後に続きます。やがてオランダ、それにかわってイギリスが七つの海を支配して世界帝国にのし上がっていく。イギリスのあとは、アメリカです。

アメリカを海洋国家などというと奇妙に感じられるかもしれません。西部開拓に象徴される「陸の民」のイメージが強いからでしょう。しかし、大西洋を渡って「新大陸」にやってきたというそもそもの始まりが、アメリカの海洋民族的素質を語っている、と私には思えるのです。アメリカというのは、長い海岸線を持った大きな島だ、とみなすべきではないでしょうか。そして、アメリカ人の気質を最もシンボライズしているのが、メルヴィルの『白鯨』だと私は思います。これはスペインの『ドン・キホーテ』と、まさに双壁をなすと言っていいでしょう。冒頭でご紹介した力ール・シュミットは、クジラが海を開いていったと書いておりますが、『白鯨』の世界がまさにそうです。いまでこそ捕鯨禁止を唱えておりますが、アメリカもかつては捕鯨大国でした。クジラを追って世界へ勢力をひろげていく。ペリーが日本にやってきて開港を迫った目的のひとつも、捕鯨船の補給基地を確保することにあったのです。

では、「陸の民」は、どのような民族なのでしょう。

まっさきに挙げられるのは、ユダヤ人です。彼らほど海を恐れた民族はいないのではないでしょうか。考えてみれば、不思議な話です。イスラエルのすぐ北のレバノン地方を本拠地としていたフェニキア人は名だたる「海の民」でしたし、近隣のエジプトもナイルの水運を大いに利用していた。

 

 

 

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