そのローマ帝国が滅亡し、中世になりますと、十字軍の聖地エルサレムの奪還機運が盛り上がります。紀元十一、十二世紀ころのことですが、このとき大いに活躍したのが、やはり「海の民」だったヴェネチアです。小さな都市国家ヴェネチアは、それまでもアラビアとの交易で富を得ていましたが、海運力を必要とした十字軍のおかげで、いっそうの繁栄をみることになったわけです。
三. インド洋を舞台に
さて、その後十五、六世紀になって、コロンブスやマゼランの登場により「大航海時代」がやってくる、と世界史の教科書ではなるのですが、しかし、じつはそれ以前に、すでにインド洋貿易が最盛期を迎えておりました。ヨーロッパが中世の暗やみに沈んでいたころ、アジアはインド洋を舞台に大変な活況を呈していたのです。その交易は、古くはローマ時代から始まっており、南インドのツチコリンや、その他多くの港からはローマの貨幣がたくさん出ております。その延長線上にあったのが、十三〜十五世紀のインド洋貿易です。では、インド洋貿易とはどんなものだったのか。アジアの国々とインド、そしてアフリカ東海岸を海路でつなぐ大規模な交易ネットワーク、と言えばいいでしょうか。