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私などは小学生のころ、「我は海の子……」と歌わされ、「軍艦マーチ」で育てられたものです。そして、その勢いはますます強まり、ついに太平洋戦争へ突入する。その最後の象徴が「戦艦大和」だったと私は思います。

しかし、それほどまでに海軍力を重視しながら、日本は敗れ去った。相手は、同じく海軍国のイギリス、アメリカです。その軍事的な意味については、ここにご出席の江畑謙介さんが詳しくご存知で、私など発言する資格はありません。これから私がお話ししたいのは、海というものの歴史的な役割について、古代からその重要性をたどってみる、ということです。

さて、世界の歴史というと、歴史家は、これまでいつも「陸」を舞台と考え、「海」のほうは、あまり重視してきませんでした。そうした史観に対して、反対に、海を中心にして、「陸」に展開される歴史を「海」から眺める新しい視点が必要だ、と指摘した人物がいました。ドイツの政治学者、力ール・シュミットです。彼は一九五四年に『陸と海(Land und Meer)』という本を書き、そのなかで、古来世界史というものは、つねに海を中心にして展開してきたと指摘して、その観点から歴史をたどってみせました。

もっとも、彼自身、そのなかでことわっているように、このような考えは、いわゆるカバラ学者(ユダヤ教の神秘主義を奉じる学者)たちによって、すでに唱えられていたものなのですが、シュミットは、彼らのそうした歴史解釈を受け入れ、さらに敷衍して、世界史をその視点からあとづけたのです。彼はこう記しています。

 

 

 

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