日本財団 図書館


第一章 海洋民族の歴史から何を学ぶか

 

[問題提起] 森本哲郎

 

一. はじめに

 

日本人が、みずからを「海洋民族」と意識するようになったのは、黒船の出現以来のように思われます。それまで日本人は「秋津島」の島民という自覚はあっても、広い海原へ乗り出していく海洋民だとは、ほとんど考えていなかったのではないでしょうか。

むろん、七世紀、天智二(六六三)年、日本は四百隻の水軍を百済救援のために白村江に向かわせています。が、唐・新羅軍と戦って敗退する。こうした苦い経験のゆえか、海洋へ乗り出すことをやめてしまったのかもしれません。その後、十三世紀から十六世紀にかけて、いわゆる「倭寇」が朝鮮半島や中国沿岸に跋扈(ばっこ)するなど、海洋へ進出することがなかったわけではありませんが、それはきわめて稀な例で、海に囲まれた島国でありながら、日本人は海洋をめざすという意志を持ち合わせていなかったと言っていいでしょう。

そのような日本人が、しきりに「海洋国家日本」を自認し、その“戦略”を練り始めるのは、黒船の出現に驚いて、それに対抗せんがためでした。そこで明治以降、海軍力の増強につとめ、日露海戦(日本海海戦)で大勝すると、いよいよ海洋国家意識が高まっていきます。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION