一部の人を除いて、多くの知的障害のある人達が新しい交流の場を求めていることは、教育実習や、介護体験実習で学生達が学校や作業所を訪れた時の歓迎ぶりを見れば容易にわかります。日常の生活圏を離れた新しい交流の場は、彼等に喜びと活力を与えてくれます。
4) 心の解放
スポーツに没頭している時は他のことを考えずに活動します。そして多くの場合、スポーツの場では、白分がイメージしたことを身体で表現します。ですから、瞬間的に自分自身が決定しなければなりません。周囲で色々な指図があったとしても、最終的には自己が決定を下し、身体に命令をして、身体の表現として運動が展開されます。
知的障害のある人の多くは、家庭でも職場あるいは作業所でも、人から指示をされて活動することが多いため、欲求不満が溜まりがちです。その不満のはけ口がありません。最悪の場合、円形脱毛症、胃炎、チックなどの身体症状として現れてしまいます。スポーツで得た成就感や友人との楽しい交わりとともに自己決定の満足感が欲求不満を解消し、精神的なバランスを保つ役割を果たします。
5) 自然との触れ合い
最近、自然との交流を求めて、熟年の人のハイキングやトレッキングが流行っています。山に登って山や自然、草木の写真を撮ったり、スケッチをしたり、詩歌の創作をしたりといった活動もスポーツを通して行っています。スキー、スノボード、魚釣やカヌー、サーフィン他、自然を舞台にし、自然との触れ合いの中に喜びを求めるスポーツが老若男女を問わず根強い人気を持っています。
筆者が以前勤務をしていた東京にある養護学校では、中学1年生から高校3年生まで6年間、毎年スキーの合宿を設けていました。多くの子供達はスキーが滑れるようになり、生涯スポーツとしてスキーを卒業後も楽しむことができるようになりました。このことは付加価値として、普段、作業所あるいは職場と自宅との往復の決まりきった生活のサイクルから離れて、未知の場所に行ってスポーツをするという楽しみを卒業生達に与えました。乗り物の好きな卒業生は、スキーと乗り物に乗るという楽しみを同時に得ることができました。自然と触れるスポーツを通して、卒業生達は生活の幅を広げることができたということができます。
これらの「よろこびの享受」のほかに、知的障害のある人たちにとってスポーツは、以下に記す特別な意義があります。