こうしたことはお互いにとって大きな損失である。もしも市場を案内する人がいれば、消費者は本当に新鮮な魚とはどのようなものかを知ることができ、水族館では見られないような色鮮やかな魚を見て感動するであろう。そうなれば自ずと、魚を土産にし、市場の食堂で食べるであろう。帰省して地元のマーケットに思い出の魚介類が並んでいれば、懐かしさとともに買う機会も増えてくる。生産者側にとれば、まず魚の名前を覚えてもらい、産地の名前を好きになってもらうことが肝要である。こうしたことが、より効果的な魚食普及活動となるであろう。
そこに誰か親切な人がいるか、いないかで、地域の印象は大きく違ってくる。
もちろんこうしたことが、簡単に実行できるものではないことは理解できるが、どのように工夫してもできない、無理だというほど困難なものではない。前述のアンケートの中にも幾つかの例が上げられている。単に消極的か、積極的かの違いである。もしも関係者の積極的な協力が得られれば、潜在的購買意欲は大きいので、魚の消費拡大には結びついていくと思われる。
各地で市場の開放も進み、市場見学や食堂での飲食は大好評である。次には本物の地元産魚介類や多種類の雑魚を並べることである。こうしたことから、様々な地域経済活動とリンクさせていけば、海・漁業体験教室の活動の場も拡大し、さらに好評を得るものと考える。
今後の新規事業は、文化的センスが問われる時代であるだけに、水産関係者、海洋レジャー業者ともに、その意識変革が求められている。
第6項 海・漁業体験教室が社会的評価を得られるために
I 海・漁業体験教室の基本理念や姿勢
・安全性の確保が第1。
・地元の人達が、自然と付き合ってきたやり方を追体験、遊ばせ、学ばせる無理のない活動とすること。
・参加者に伝える自然・文化は、日常生活に密着したものとし、環境保全や地域社会に対する認識を深めてもらうための文化的活動を組み込む。
・地域の資源・資産が、住民とどう係わっているのかを理解させること。
海・漁業体験教室を行うにあたっては、漁業・漁村の社会的意義を追求するとともに、水産業や水産流通業のおかれている立場などにも言及し、地域文化や海洋文化のことなどについてもよく知ってもらうことが必要であるが、こうしたことにより、関係者の社会的地位の向上をめざすことも大切である。
なおこうした点を追求していけば、当然漁業者に与えられた様々な権利や許認可についても論議は及ぶと思われる。例えば、漁業権が漁業者の生活維持のために行使されていることは言うまでもないが、その機能が十分有効に表れていないという意見があることも見逃せない事実である。そうした点についても折に触れ、説明することも大切な要素となろう。
そのためにも海・漁業体験教室の基本理念や姿勢が大切となる。それらを以下列挙した。
1] 安全性確保が絶対条件であるが、その成立が天候に左右されるため、陸上とは全く異なる視点が必要である。それが可能になれば、海には遊び方にも学習にも豊富な素材があり、参加者は飽きることはない。