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第三に、行政相談委員は、政府のプロセスあるいは政府・国民関係に「ヒューマンタッチ」を持たせることにつき、比類のない、また強力な役割を果たしている。国民というものは、行政が自分たちに対して同情の念を持ち、手を差し伸べ、そして救ってくれるものであることを希求している。にもかかわらず、あまりにも多くの場合、頼みの綱として行政にすがっても自分に向けられるのはただ「冷たい視線」のみであるという状況に直面する。こうして国民は打ちひしがれ、行政相談制度に活路を求め、そこに行政相談委員がいて、温かく迎え入れ、助けてくれるのである。このように、行政相談委員が国民の有する苦情やその他の問題の解決を助けるという任務を遂行することは、国民が、行政に対して求めて得られない「ヒューマンタッチ」を現実に国民に感じさせることにもなっているのである。行政相談委員は行政府の一員ではないが、国民は自らが行政に求め続けてきた「人間の顔」を最後の最後にこの行政相談委員に見つけるのである。

 

第四章 結論

国民はあまりにも多くの場合に、政府や公務員による、わかっておりながらのあるいは意図せずしての対応により、不当に扱われたと感じ、憤りを抱き、また打ちひしがれる。オンブズマンの出番はここである。そしてオンブズマンがまず一心を集中し、そして必ず行うことは、自分がそのような国民を助けるために存在していることをこうした国民に示し、しかも本当に助けることである。

日本では、そうした助けの手は行政相談委員が差し伸べる。行政相談委員は選ばれて官の委嘱を受けるが、苦情を持つ人にとっては自分と同じ地域社会の一員(いわば身内)である。その多くは一般に高年者であり、またその経歴(自治会、地域の伝統や宗教活動、福祉、青少年あるいは婦人関係の地域活動、あるいは教育関係者)の故に地域社会において既に一定の地位を築き広く誰からも信頼を集め相談を受けるような立場の人たちである場合が少なくないが、しかし、そうでなくとも、いわば市井の人で、他人を助けるような仕事がしたいという貴い志を抱いて行政相談委員の委嘱を受けられ、人々がごく日常的な気分で気楽に話を持ち込めると感じるような人たちも同様たくさんいる。こうして行政相談委員はどの人もみな、苦情の解決につき、政府のどのような苦情処理官署の職員もどうしても真似のできないようなかたちで、申出人に耳を傾け、事情と言い分を聞き、気持ちを通わせ、場合によっては理非曲直を説くことができるのである。

 

「国民本位の行政」は、どこの国の政府にあっても目標とされなければならない。各国のオンブズマンは、国民がその機能に期待するところのものを遂行し推進することにより、自らの立場から「国民本位の行政」の実現に寄与することができよう。多くの国のオンブズマンが行っている、苦情案件を実例に挙げての講義や出版物による公務倫理や服務規律に関する教育活動は、そのような方向での努力の一例である。日本で行政相談委員制度の果たしている機能にも同様の視点から光が当てられ評価が与えられなければならない。

 

結論として今次総会の統一テーマとの関係において言えば、行政相談委員制度における日本の経験は、各国のオンブズマンは、自らに対する国民の期待に間違いなく応えることによって、政府が国民の期待に応えるのを助けることができること、そして、オンブズマンはそのことにより政府・国民関係の改善に重要な役割を果たし得ることを示唆するものである。

 

 

 

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