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国際オンブズマン協会第七回総会―

反響を呼んだ堀江審議官の演説

 

(社)全国行政相談委員連合協議会国際業務部長 谷宗春

 

二〇〇〇年一〇月、南アフリカ共和国ダーバン市で開かれた第七回国際オンブズマン協会総会(四年に一度・行政監察局は正会員・全国行政相談委員連合協議会は準会員)において、総務庁行政監察局行政相談担当審議官の堀江正弘氏が、アジア地域からの数少ない登壇者の一人として、「政府・国民関係―国民は政府に何を期待し、そしてオンブズマンに何を期待するか―日本の視点」と題する演説を行い、大きな反響を呼びました。

 

堀江審議官は、総会の統一テーマに沿って、政府と国民との関係の改善にオンブズマンやその他の苦情処理機関がどのように寄与できるかを論じました。その中で、同審議官は、日本の苦情相談制度の根幹を成す行政相談委員制度を取り上げ、その在り方、すなわち行政相談委員が国民と行政の間で「通訳者」の役割を果たし、国民は行政相談委員に行政にはなかなか見ることのできない「人間の顔」を見るという関係を通じて、行政相談委員がどんな苦情処理機関も及ばない役割を果たし、「ヒューマンタッチ」に満ちた国民本位の行政の実現に寄与していることは、苦情処理機関に国民との関係で期待される本来の在り方を体現するものであると指摘しました。その上で、このような行政相談委員の在り方は世界各国のオンブズマンにとっても、政府と国民との関係の改善に自らの果たす役割を考える上で、大きな示唆となるものであると結論づけました。そして、総会演説の中でも出色の内容のものであったとの高い評価を得たものであります。

 

以下、同演説(原文英語)の後半部分を読者のご参考のため紹介します。

 

第三章 行政相談委員と政府・国民関係

行政相談委員制度の発想は、日本の工業化以前の地域社会に見られた伝統的紛争解決システムにその一端を発している。そこでは、お上との紛争や私人間の紛争が地域の名望家に持ち込まれたのである。旧来の地域社会のこの慣行は、行政相談委員制度のかたちをとって二〇世紀の苦情相談制度に取り込まれ、今や以下の三つの異なった側面において大きな意義を発揮している。

 

まず、行政相談委員の活動は、オンブズマン制度につき近時その有用性が論じられている「非対立的」アプローチの日本固有かつ日本原産の発現形態である。日本の行政相談制度は、総務庁の行う「あっせん」の概念を中心に作り上げられており、もともと「非対立的」指向を強く有している。しかし、その下において、苦情処理プロセスに行政相談委員という非公務員が存在する事実ほど、行政相談制度の「非対立的」性格を雄弁に物語るものはない。

 

第二に、行政相談委員は、国民と現代行政との間の仲介者の役を果たす。行政は今日その規模、機構及び施策制度・運営において著しく拡大し、それは一般国民の把握できる限度を超えている。実際、日本の行政相談制度に寄せられる案件の大半は、自ら当然受けられるはずの給付や措置を行政から得ようとした途端、頭の痛くなるような文章だらけの規則や様式の世界に落ち込み身動きのとれなくなった国民や、本当に困窮した境遇にあるにもかかわらず自分では行政からしてもらえることが一体あるのかないのか、あるとしてそれは何なのか全く見当のつかない国民からのものである。行政相談委員は、そのような状況で、国民がそのナマの気持ちをぶつけ整理されないかたちで訴える苦情の趣旨を理解し、これを公務員の世界に通じる表現ややり方で行政に伝える唯一の存在である。行政相談委員は、また、国民からの問い合わせに対して、むずかしい法令の言葉を言い換え、分かりやすい言い方で回答することのできる人々でもある。行政相談委員は、国民と公務員という二つの世界の言葉を理解する人々である。かくして行政相談委員は、国民と行政の間の通訳、それもとても身近で公平なそして信頼される通訳の役を担っているのである。

 

 

 

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