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私のスピーチは日本の行政相談委員の制度と活動に関するもので予想を上回る関心を呼びました。その内容は本誌掲載の谷宗春全相協国際業務部長の報告で紹介されていますが、もとはと言えば、ダーバン大会への出席に向け準備されていた塚本行政監察局長の原案があり、私はいわばそれを脚色し、演出し、アドリブを加えて演じたに過ぎませんが、エルウッドIOI会長からも、「マニラのアジアオンブズマン会議でのスピーチに続いて、今回のスピーチも良かった。」と言われ、ほっとしました。いずれにしても、全ての市町村に置かれた日本の五〇〇〇人の行政相談委員の存在は各国の出席者に強い印象を与えたようです。

 

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左から2人目、筆者

 

○会議三日目

この日のハイライトは何と言ってもマンデラ前大統領の登場です。各国の参加者も朝から落着かず、歴史的な瞬間を待つという感じでした。会場にマンデラ氏が現われると、その一挙手一投足に人々は注目し、スピーチが始まる前からオーラが漂っているようでした。三〇年近く獄につながれた後に大統領に選ばれたマンデラ氏は新しい南アフリカのいわば「国父」のような存在であり、不撓不屈の人として、各国のオンブズマンに畏敬の念を抱かせずにはおかない圧倒的な存在でした。幸いにして、私と鎌田会長はマンデラ氏と握手し、言葉を交すことができました。国賓としても来日されたことがあるマンデラ氏は、「森総理はどうか。海部総理はどうか。宮澤総理はどうか。」と気遣って下さいました。この日のスピーチの中で、マンデラ氏は、「民主主義を支えるパブリック・プロテクター等の機関が私の政府機関の行なったことについて判断するよう求められ、その機関に反対の裁きをしたとき、私は怒るよりもむしろ慰められた。このような判断が下されることにより、我が国の一般の国民が守られるのだということを、私の政府も私自身もあらためて確認できたのである。民主主義は、全ての人々、とりわけ、貧しい人々や弱い人々がより良い生活ができるようにするものでなければいけない。我々は、自らの利益のために権力を求めるような人間によって、貧しい人々や弱い人々がどんなに食い物にされやすいものであるかということを知っている。そうであるが故に、政府を監視する独立の機関というものが、一般国民のより良き生活を確保するために決定的に重要なのである。」と述べています。短かい時間ではありましたが、私達は、マンデラ氏の不屈の精神と知性と人柄を感じとることができたのでした。

 

 

 

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