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介護サービスの利用者にとって実効性のある苦情処理体制とはどのようなものだろうか。苦情処理体制に必要な機能は次の三点が挙げられるだろう。第一に利用者が気軽に利用できる相談機能、第一に利用者の権利を擁護する機能、第一に利用者と事業者双方のための情報提供機能、である。これらの点を本稿で取り上げた三つの取り組み例に則して考えてみたい。

第一の相談機能は枚方市の「福祉オンブズパーソン」、大阪市の「おおさか介護サービス相談センター」、「市民オンブズマン機構・大阪」のいずれもが備えている。枚方市の福祉オンブズパーソンは非常勤の委員が2人であるのに対し、おおさか介護サービス相談センターは常設で、常勤の相談員がいる。物理的アクセスの容易さという面では、常勤の相談員がいる方がいいだろう。しかし、枚方市と大阪市では介護サービスの利用者数も提供事業者数も異なるため、予想される苦情・相談の数も異なる。今後の相談受付に関する統計が整備されるまで判断できないが、枚方市のような中規模の都市では、相談窓口は常設でなくても十分対応可能なのかもしれない。相談する際の精神的なアクセスの容易さは、市民ボランティアを中心とした「市民オンブズマン」の利点である。

介護保険法のもとでは、介護サービスには公的なものと私的なものの両方が含まれる。そこで、第二の利用者の権利擁護機能は、行政機関とサービス提供事業者に対して実効的なものでなければならない。そのためには、第三者機関の行政・事業者からの独立、中立性の確保が重要である。また、ある程度の専門性も不可欠の要素である。

枚方市のオンブズパーソンの場合は条例に基づく第三者機関であり、市はその意見表明や勧告、提言に対し、速やかな対応をすることが定められている。現在のオンブズパーソンは福祉と法律の専門家であり、第三者機関が持つべき基本的専門性を備えていると言える。

「おおさか介護サービス相談センター」は任意団体であり、保険者、利用者、事業者から中立的な立場で苦情調査、斡旋・調停を行うことに主眼を置いている。条例に根拠を持つ市の諮問機関ではないため、枚方市のように市に対して勧告や提言を行う法的権限を有しているわけではない。苦情解決と事業者評価について中立性・公平性を確保するため保険者と利用者、事業者の代表が運営委員会に参加している点が特徴である。相談は一般相談と専門相談に区分し、それぞれに対応する相談員を配置しており、調停委員会には各分野の専門家が参加している。専門性という面では、かなり水準の高い組織となっていると言えるだろう。

「市民オンブズマン機構・大阪」は市民参加の苦情解決システム構築を目指すユニークな取り組みを行っている。利用者と事業者のコミュニケーションを促進し、当事者間でのトラブル解決をコーディネートする組織として自らを位置づけている。

 

 

 

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