最後に、ソウ氏は、過去5年間オンブズマンとして海外の同じような仕事に携わっている方達と交流をしてきた中で学んだことは、国によって社会的、政治的制度も違い、文化や道徳の基準、価値観や国民の要求水準も異っているが、オンブズマンには共通の目標、目的、機能、役割というものがあるのではないか、ということを指摘されましたが、私も全く同感であります。
(4) オースティン氏の発言
オースティン氏は、『オンブズマン:その役割と発展の国際比較』と題する講演において、「オンブズマンの具体的な任務と地位の差は、そのオンブズマンがどういう背景の下で業務を遂行しているかによって左右される」として、世界の国々を「政治と経済」の二つの要素によって、1]経済発展した確立された民主主義国家、2]経済発展した新興民主主義国家、3]経済が発展途上にある新興民主主義国家、4]経済が発展途上にある伝統的民主主義国家、という四つに分類し、それぞれの国家におけるオンブズマンの役割の相違点について説明されました。
次に、氏は、日本については、「私のタイプ別分類の中では、『日本型オンブズマン』といわれている行政相談制度は、第一のタイプ、つまり、経済発展した確立した民主主義国の制度に最もよく似ていると思う。」との位置付けをされるとともに、日本の行政相談制度について、「この制度は、国民の政府に対する苦情の処理を行う一方で、新たな苦情が出ないよう対策を取ることも重視しており、機能的な面から見ると、オンブズマンのように苦情を基に動くものであり、他方、制度的な面から見ると、・・比較的自律性はあるものの、政府部内の人である行政監察局及びその出先機関の職員と、行政苦情救済推進会議や約5千人の行政相談委員のように、より外部の独立した立場の人たちが、ネットワークを形成している仕組みであることから、このネットワークの構成部分として役割を果たす組織や人々の独立性が、よりはっきりしたものになればなるほど、このシステムは、制度的な意味でもオンブズマンに近づく。」との見解を示されました。
(5) ジャコビー氏の発言
ジャコビー氏は、『オンブズマン制度の発展とその役割』と題する講演を行われましたが、その「まとめ」として述べられました、次の言葉が大変印象的でした。
オンブズマンは、柔軟性のある手を持っている。もちろん、法の持つ長い腕に比べればだいぶ短いものであるが、オンブズマンの持つ手は、5本の指以上の働きをすることができる。さらに、いろいろな調査や勧告をする際の道具に使う。それを駆使することによって、自分の持つ指を増やしていくこともできる。オンブズマンの力、熟練性が上がれば上がるほど、この指の数が増えていき、数が増えると、対応できる範囲が広がっていく、これが繰り返されていく。
オンブズマンの柔軟性のある手を身につけていくのに必要なものは、オンブズマンの有効性を達成するための三つの要素−プロアクティヴであること、アクセシブルであること、インデペンデントであること−がその焦点となる。
このような手は、一体何に対して差し伸べられるのか?一つ目は、国民から寄せられるいろいろな苦情や問題について、公的機関にしっかりと認識させること、二つ目は、解決策を出すことである。