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資料5

 

弁護士からみた行政の苦情とその処理面での課題

 

山本智子 (弁護士)

 

一 行政苦情の多様化と対応する制度の硬直化

1 ゴミ処理場等の環境問題から介護保険制度等の社会福祉また身近な生活道路の保全に至るまで、住民の行政への苦情は多様化し、問題そのものの解決のみならず、制度・運用の改善等トータルな解決が求められるようになっている。

2 これに対し対応する行政窓口は、各所管ごとの対応であり住民のニーズをトータルに受け止められない。

3 行政訴訟・行政不服審査・監査等の既存の制度は、手続きが厳格で費用と時間がかかる上、ALL OR NOTHINGの解決を想定しており、実際の生活に必要な改善を生み出さない。

4 地方選挙における投票率の低さは、議会がこのような問題に対して、住民から遠い存在と受け止められていることの証左。

 

二 住民の苦情と行政対応のミスマッチ

1 弁護士として行政訴訟を見ると、係争のみが前面に出て、行政を改善するという本来持つべき目的が双方当事者に失われている。

2 情報公開審査会委員の経験から、情報公開制度は行政苦情処理に貢献する度合いが大きいと感じる。異議申立の背後には、必ず行政への苦情や改善要求があると感じる。また、異議申立人の意見を聞くと、申立人に対する各行政部署での初動対応や聞き取りのミスマッチが、相互の誤解や解決の遅延を招いていることが見られる。

 

三 行政への住民の不信と行政オンブズマンの役割

1 行政が創設するオンブズマンには、よほどの独立性がなければ信頼されない。主観的には現在の福岡県の情報公開制度審査会及びその事務局は準第三者機関として誠実な仕事をしていると考えるが、客観的にその独立性に住民の信頼を得ているかどうかは別問題である。

2 行政運営の監視や制度の改善をその機能として持つためには、任免・調査権等の独立性が、住民の納得を得る鍵である。また、本来は議会がオンブズマンを持つべきであり、地方自治法上の制約があるなら、議会の関与方法を工夫したら良い。

3 このような趣旨からも、行政オンブズマンは要綱上ではなく条例上の制度が良いと考える。情報公開制度と両輪で進むべき制度であることからも、調和がとれる。

 

 

 

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